〜　海とバイクのある風景　〜


　 夢を枕に憧れつづけたことがある。
果てしなき大地、見果てぬ夢、海岸線を鴎と競走。風を切り、風景と一体となれる感覚。今、その熱き扉を開く・・・。
　夜明け前、寝ぼけ眼で旅支度。お気に入りのブルージーンで跨ぐ我が愛車。はやる気持ちにブレーキをかけ、スロットルオン。いつか見た風景画に魅せられて、目指すは一路海の見える丘。闇を照らすヘッドライト、排気音を残し、地図も持たずに街並みを後にした。

　やがて進行方向の空が俄かに微笑み出す。薄明かりの中、ミラーに写る蒼白き月が、少しずつ背後で遠ざかる。
刻一刻と紅に染まる朝焼けの雲、どこまでも続くワインディングロード。道すがら、対向するライダーに二本指で合図。言葉を交わすこともなくすれ違う。シフトアップ・ダウンの連続。傾く車体に見え隠れするセンターライン。

　木漏れ日の中を疾走するバイク。左右の景色が縦横無尽に流れて行く。気分は上々。見知らぬ道を走るのもまた格別。トンネルをくぐり、辿り着いたのは、早朝のフェリー埠頭。バイクを堤防の車止めに停め、シールドを開ければ、皐月の風と磯の匂い。疲れた体を癒す和みの瞬間。
　記憶の断片をつなぎ合わせ、「過去という名のジグソーパズル」を組み立てる。いつか描いたデッサンのイメージに溶け込むパーツが目の前に広がる。

　続いて海沿いの国道に沿ってバイクを走らせれば、やがて訪れる桜吹雪が舞い散る、一面薄紅色の世界。季節の香りを「想い出」に重ね合わせ、そのひとコマずつがストップモーションで甦り、静かに時が止まる。風の道標、ふと光る海に目をやれば、知らぬ間に一羽の鴎が並走。

　来る夏の予感を探しに砂浜に乗り入れ、波打ち際を走った。春の波は気まぐれ。行き先知れず。岸辺には、朧気なあの日の幻影。日溜まりの中で佇む訪問者をやさしく包み込む安らぎのひととき。そんな春の一日を演出するポートレート。

Ｐｒｅｓｅｎｔｅｄ　ｂｙ　ＳＵＺＵ